セッティングその3

まず状況を整理してみます

念願の高回転での吹けあがりをベンチュリー交換にて手に入れたわけですが、嬉しいのはその結果だ けではなく、セッティング変更の結果が予想どおりだったことです。

しかし予想どおりだったのはメリットだけでなく、デメリットも予想どおり出てきました。低回転でのレ スポンスの悪さと、中回転での過渡特性の悪さ、いわゆるつながりが悪い、というやつです。メインジェッ トの変更により大分改善したのと、面白がってひたすら全開にしかしていなかったので気にならなかったの ですが、何度も乗るうちに街乗りでとても乗りにくく、かつ遅いのがどうも気に入りません。3000手前 から4000過ぎまでの回転域でスムーズに加速していきません。激しく息つきして、空燃比計は例によっ て薄いほうに振り切れます。アクセルを一気に踏みすぎたときの状況に似ていますが、アクセルを少し戻し てやっても息つきには変化はありません。

状況を整理しつつ、対策案をいくつか先に考えておきます。理論的に攻め、セッティング変更の方向性を 決めた上で状況変化を予測していかなければ泥沼にはまるだけでなく、良いセッティングが出てもそこから 先につながりません。

全開にされた直後だとこの症状が出にくいことから、点火系も原因の一つであるようです。おそらくHK Sの8番のプラグが低回転では火花を飛ばしにくいことが原因でしょう。これはNGKの5番のプラグをい れてみれば、すぐにはっきりします。しかし基本的にはキャブのセッティングを変えた時から(ベンチュリ ーを変更してから)調子が変化していることから、原因の大元はセッティングのまずさによるものと考えら れます。何かを行うことで、今まで気付かなかった問題に気付くこともありますが、今回はそれとは違うと 思いました。

特にキャブ車ではアクセルの踏み込みスピードが速すぎる場合には負圧が一時下がってしまう事により同 じような現象が起きますが、この場合はアクセルを戻せば普通に走ります。一方、私の場合はどう踏んでも 息つきがおきますが症状はそっくりです。根本的な問題があるために踏み方ではコントロールできないの は当然です(ちなみに、仮に踏み方でどうにかなるような状況まで持っていければ、多少の乗りにくさは目 をつぶり高回転での性能を優先するつもりです)。やはり負圧減少の影響により特に、中回転でガスが入って いかない時があるのでしょう。パイロット系の支配領域では、加速そのものは鈍いものの息つきがおきない のは、バタフライにより負圧が作られているためでしょう。中回転でも大きく踏み込んだときは、加速ポン プ系により燃料が強制的に増量補正されるために息つきがおきないのでしょう。

そこで中回転での低負荷時に負圧を上げるにはどうしたらいいか、また負圧が少ない状態でガスを入れる 方法がないかを考えます。

ベンチュリーを小さくするのは最後の方法とします。高回転でのふけ方、パワーの出方はかなり気持ちが よく、セカンドで7500までストレス無く回っていき、かつ回るだけでなくトルクがきっちり続く感じは 捨てがたいものがあります。とすればバルタイ変更で負圧を上げてやるのはどうでしょう。今のバルタイは 108,112になっている筈です。これを110,112に変更します。オーバーラップは少なくなり高回 転での回り方には少し悪影響があるでしょうが、今までの経験ではそれほど変化は無いはずです。中回転で の絶対的な負圧不足は明らかでどうしても対策しなくてはいけない部分なので、場合によっては高回転を多 少犠牲にしてでも、インテーク、エキゾーストとも115までは振ってみようと考えました。

中回転の低負荷時に燃料を濃くする方法も考えてみます。高回転を考えた場合にはジェッティングは既に いい感じになっているようなので、ジェットは替えずに中回転を濃くすることは出来ないでしょうか? 

ジェットから負圧によりガスが吸い出されるという事は、逆にいえばジェットに吸気管の圧以上の圧がかかっ ているということです。ジェットにかかる圧とはなんでしょう? 大気圧、というのはすぐに思いつきます が、他には何があるでしょうか。ジェットはフロート室でガソリンに漬かっている訳ですから、ガソリンの 深さが深ければジェットにかかる圧は高くなるわけです。数ミリの油面変化による圧の変化はわずかですが、 負圧が少なく吸い出す力が弱い状況では影響は大きくなるはずです。というわけで油面をあげてみるのはど うでしょう。油面を上げるとオーバーフローの可能性が大きくなります。そこは燃圧と相談しながら決めて いきます。今の燃圧は0.4キロですが経験上0.05から0.10キロ下げても高回転での燃料供給には問題は 無いと思います。やってみてから空燃比計でチェックすればいい訳ですし。油面はソレックスの規定値どお りです。今回は規定値を無視して上げてみます。3ミリくらい上げてみましょうか。

今回のセッティングには直接関係ないですが、ヘッドカバーをはぐるついでにタペットクリアランスも測 っておくことにしましょう。


ベンチュリー拡大のデメリットを改善する

考えたことを実行していきます。まずはバルタイ調整です。始めに今のバルタイを確認しておきます。1 08,112になっていると嬉しいのですが。因みにこの日は3月も半ばというのに非常に寒く、作業はつら いものがありました。

測定結果は109,112と、ほぼ前回の測定結果どおりで気分が良いです。スライドスプロケットをずら してインテークを112°に変更します。トダのスライドスプロケットの目盛が十分信頼に足るものである ことは確認済みですし、セッティング中なので希望の数字どおりにあわせることよりも、作業の効率の方を 重視します。

バルタイ調整では当然圧縮上死点を出すためにプラグをはずしますが、はずしたプラグは見事にキツネ色 でベンチュリー交換後のキャブセッティングは間違っていないことが分かりました。むしろベンチュリー交 換前より綺麗に焼けています。今までは周辺電極のカーボンの境目がくっきりしていて、黒い部分のカーボ ンの量がかなり多いのに対し、ついていない部分は焼けすぎ気味ですっきりしない感じでした。今回は境目 がぼやけていてつき方自体も薄く、中心電極と碍子もいい具合にキツネ色でした。次回のサーキット走行時 には新品のイリジウムプラグを奢るつもりですのでよりはっきりするでしょう。

ともかく自走チェックです。ITCで800回転の点火時期を7度進めてからエンジンをスタートし、ブ リッピングをくれて暖機します。寒い割にはアイドルが高く、恐らく負圧が上昇しているのだろうというこ とが分かります。すぐに1000回転ぐらいになったので少しずつ点火時期を遅らせていきます。いつもの 作業なので少しの違いも敏感に感じ取れるのです。

走り出してみると息つきが明らかに少なくなっています。ジェットはいじらずにインテーク側のバルタイ を3度いじっただけですから、この日の気温では燃調は薄くなっているはずです。にもかかわらず息つきが 減り、空燃比計は薄いほうには振り切れなくなりました。息つきが出ると理論空燃比ぐらいまでは薄くなり ますがそれ以上は行かず、しかもアクセルを少し戻せばすぐに加速しだすとともに、空燃比計も12以上の 値となります(因みにキャブ車は空燃比が踏み方ひとつで大きく変わるので、空燃比を12から12.5にあ わせればいい、という単純な理論だけではセッティングできませんよ)。アクセルのふみ加減を工夫すれば息 つきを起こさずに走れる、というのにはかなり嬉しくなりました。高回転での影響はほとんどありませんで した。同じように吹けていきます。トルク感もそのままです。ここでは3°の影響は出なかったようです。「バ ルタイ」の項で前述したとおり、普通はバルタイの3°の違いはこんなにはっきりは出ず、セッティングは 5°刻みで行うのがセオリーです。しかし今回のような絶対的に負圧が足りないケースでは影響は大きくな ります。高回転では普通どおりほとんど影響が出ませんでした。うまい話もあるものです・・・

もう少し努力すればベンチュリーは39φのままでいけそうな気がしてきました。しかもこの状況なら油 面の高さ変更はしなくて済むかもしれません。コーナリング中などのガソリンの偏りによる息つきやオーバ ーフローにつながる油面高さ変更はできればしたくないのです。

ここでいいアイディアを頂きました。それはレーシングジェットブロック!!! 以前友人が同じ物を買 ったときには、この製品の意図も効果も良くわかりませんでした。以来、私の中でレーシングジェットブロ ックは「使えないもの」として位置付けられていました。しかし今やこいつは期待の星です。副作用が大き いので余りやりたくなかった油面変更ですが、これなら副作用なしで同じ効果が得られます。

すぐにどんな製品があるか調べて見ます。亀有のみが作っているようで(5000円)ミクニ純正はない みたいです。SKサンヨーのジェットブロックは何種類かあって、どれも1800円で安いのだけどOER 用かも。見た感じ少し長いのがあるのだけど使えるのかどうかは不明。亀有のレーシングジェットブロック は普通のOAより12ミリ長くなっています。あと真ん中辺りの吹き出し穴(?)の大きさ、数、穴のテー パー具合が違います。つまりレーシングジェットブロックは負圧が少ない状態で初めて効果を発揮できるア イテムなのです。負圧が少ない状態というのは大きいカムや大きい吸気管径によって起きますので、そうい う意味では「レーシング」なのでしょう。


亀有のレーシングジェットブロックに交換

交換した日はみぞれ混じりの雨が降り出し、翌日のサーキットに備えて履いたSタイヤでは全開の走行は 出来なかったのですが、街乗りの感じはとてもよくなりました。息つきは完全に解消し、アクセルの踏み込 みのスピードに関係なくごく普通に走ります。普通の感覚のキャブ乗りなら息つきを誘発することは無いで しょう。

トルク自体も当然太くなり、34ベンチュリーと同じ、とまでは行かないものの3000回転から先では 十分満足の行くトルクが出ており、この日のような路面状況では、アクセルワークひとつで、ローギヤでは まるで雪道を走る時のようにテールスライドを起こせました。

低中回転でのアクセルレスポンスも改善しましたが、もう一息という感じです。街乗りでの踏み返しでのツ キも、たまーにほんの少しですがグズる時があります。

でもサーキットを走る車としては、十分過ぎるほど納得の行くレベルです。むしろここまで改善したのな ら、バルタイを逆に高回転に振れると思います。先日112.112にしたバルタイですが、108.112 に戻すとか、もっと振っていってみるとか、また楽しめそうです。

でも注意してほしいのは、レーシングジェットブロックが高性能だからパワーがあがった、という事ではな いのですよ。目的に合っていたということです。

セッティングその4に続きます。

TOPへ  
 

inserted by FC2 system