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メインメタル溝の考察

前回気づいたメインメタル外溝の違和感。
現代のエンジンではほとんど採用されていない外溝メタル、調べてみたらこれがなかなか奥が深かったんです。
なんと当初の1200では内溝だったのが、途中から外溝に変更されていました。
どの時点で変わったのか、明確には分からないのですが、ウチの65と年式がマッチしていた1200ccエンジンから出てきたクランクは変更前の内溝メタルに対応した形状でした。


右から1200cc用64mm、1300cc用69mm、CB_Performance82mmのクランクです。



64mmと69mmクランクの比較。各ジャーナル・ピンの太さは同じです。
ちなみにもっと古いスタンドエンジンだとエンドプレイシムが刺さる部分が細いらしい。
メタル形状の変更と同時に油穴が変更されています。以前に観察した時に気づいたとおり、クランクピンの油穴が片面→両面に増え、さらにメインジャーナルに切り欠きが追加されています。


センターメインジャーナル、#1#4の2つのピンにオイルを送っており、ここの油量はより重要。
油穴に追加された切り欠きの長さに注目。


見ての通りX型にドリリングされており、クロスドリルドクランクと呼ばれます。ストレートドリルドクランクと呼ばれる64mmよりも形状としては弱くなります。おそらくその対策としてフィレットロールが追加されているんでしょうね。


メタルの油穴の上をジャーナルの油穴+切り欠きが通過する間だけ、メインジャーナルからクランクピンにオイルが送られます。角度にして280度(らしい)。
全回転で油圧が掛かった方が当然良いように思うのですが、何故VWファクトリーはこのような変更を行ったのか?随分考え調べたのですが、確証は得られず。
なので以下は全くの推測。
もちろんファクトリーは油膜の確保のためにメタルとクランクのデザイン変更を行った筈ですが、1960年当時、メーカーと言えども大した測定機械も無くやってる事はプライベーターと大差なかった。つまり仮説を立てて実際やってみて時に壊してみて仮説を検証してたはずで、必ず正しい判断がなされた訳じゃ無いのかもしれません。
空冷VWエンジンのオイルポンプは外接歯車なので、オイルの圧送量が少ないです。油圧も垂れやすい。メインジャーナルの油穴には遠心力が働き回転上昇と共にオイルが入り込みにくくなります。油圧が打ち勝てないとクランクピンにはオイルが行かなくなります。上下死点ではピンからオイルが押し戻されて来るかも。であればむしろピンへの通路を封鎖し、ピン周囲に残っているオイルでフィルムしてしまおうと考えたのでは?と。
しかしこの変更が改悪だったとファクトリー自身も後に気づいたらしくタイプ4エンジン製作時に内溝メタルへと再変更されています←この事実を知って自分の考えに自信が持てました。
ちなみにクリアランス管理が厳密に出来る現代のエコエンジンなら、外溝メタルにする事でオイルの供給量を減らせる=オイルポンプを小型化してその負荷を減らせるメリットはあるかも。

余談ですが、64mmのメインメタルには本来は内溝メタルが使われる筈なんですが、うちのはどうやらオーバーホール時に間違って外溝メタルが使われてたようで。1回転のうちほんの一瞬しかピンへオイルが行かない恐ろしい仕様。良く焼き付かなかったなぁ。回さなきゃ大丈夫なもんなんですね。



続いて69mmとCB82mmを比較します。



油穴の比較です。
CB82mmの油穴の切り欠きは69mmに比べてかなり短く浅いです。


センタージャーナルも同様。これに外溝メタルはヤバイでしょ。ピンにオイルが送られない時間が長すぎます。ただでさえこのクランクはクリアランスが広めでピン周囲のオイルがこぼれやすいので、余計にマズイ。


CB82mmのドリリング。
ジャーナルからピンへストレートにドリリングすると回転上昇に伴い遠心力でピンへオイルが送られ過ぎて一時的にジャーナル側の油圧低下が起き、油圧が不安定になります。
なのでH型にドリリングするのが理想でCBのはそうなっています。当然メクラ蓋が必要になります、このメクラ蓋、時にゆるゆるで本締めされてなかったりするそうな。一度外して掃除して最強ネジロック塗って締めこみたいところ。イモネジのネジピッチはかなり荒く、おそらく特殊なものなので、無くすと面倒なことになります。多分力掛けて締めこんでもネジ山が破壊されないよう荒ピッチを採用しているんでしょうね。


メインジャーナルの油穴はまっすぐ突き抜けておらず、V字型に入っています。


ピン側は突き抜けています。

んでどう考えてもCBのクランクに外溝メタルはまずいので内溝メタルを探すと。


丸型のメタルはどれもオールアルミですが、2分割のセンターメタルはスチールバックが存在します。もちろんアルミバックよりメインジャーナルの強度が上げられますのでスチールバックを採用したいのですが。1200に純正採用されていたKOLBENSCHMIDTのメタルが内溝かつスチールバックで正に理想なのですが、SOLD OUT。
手元にあるSilver Lineもスチールバックなので、こいつにリューターで内溝入れようと真剣に考えたのですが、外溝があるのであまり深くは掘れません。うーん。
そうこうしてたら本当に有り難いことに当時もののKOLBENSCHMIDTの中古が手に入りました。ケース側、クランク側共にスタンダードサイズ。厚みを測定するとSilver Lineと同じです。使えます。 メタル表面の材質は純アルミではなくカッパーとブロンズ。


さらに、今回のケースはメインジャーナルの1箇所に追加工でノックピンを打って分割メタルが使えるようになっているので、そこもKOLBENSCHMIDTの内溝メタルを使えます。


1200のケースを見てみると、ノックピンの穴は1200でも開いているんですね。


残る1個に溝加工を施すことにします。
まずは練習、これは例の潰してしまったメタル。一番小さい刃で掘ってみましたがイマイチです。失うメタル面を出来るだけ少なくしかつ流量を増やせるよう、角を掘り込みたいのですけどこの刃では無理。


角が立った回転砥石でチャレンジ。
結構良いかも。


さて本番。
上記二種類の刃に加え、このタイプの尻側を使ってスパッと掘り込みました。クランクの油穴はセンターからオフセットしていたのでその分も考慮しました。


# 2015.08.16 追記
さらにSambaを読んでいて、この加工を実施したにも関わらずメタルが回ったって書き込みがあり。
やっぱり1mm程度の深さの溝では足りなかったか...と。


そこで穴を追加しました。3.5mmを6個、これで合計8個のオイル供給穴がある事に。
もちろんメタルの強度は落ちますが、ツバ付きメタルで他より丈夫なので大丈夫かなと。






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