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リルートキットの解説

元々FF用のB型エンジンをFRのロードスターに搭載した際に冷却水の回路デザインに妥協があったのは良く知られているかと思います。自分が最初に「リルート」を見たのは30年近く前でしょうか、ジョイファストのデモカーでした。


左がロードスターの純正の回路です。
問題点は、ブロック前側に取り付けられた水ポンプから送り出された冷水がそのままヘッド前側からラジエターに向かってしまうこと。これによってエンジン後ろ側が冷えにくくなっています。
過去二回オイルポンプの破損でブローした際にもエンジンの後ろ側ほどメタルのダメージが大きかったので、エンジン後ろ側に熱が溜まりがちというのはどうやらそのその通り。

エンジンフロント側
インテーク側

左はマツダスピードの85φボア用、右はノーマルのメタルガスケット。なんと今見直すと水穴が異なっていて、MSのはエキゾースト側の水穴が各気筒2個づつあります。エキゾースト側を冷やして異常燃焼を回避しようとしていたのですね。当時は気づかなかった。
インテーク側はMSも純正も同じ。4番のインテーク側に2個の水穴があり、1〜3番のインテーク側は1個だけ。おお、4番に少しでも回そうとしているんだな、と思いきや1番の前側に2つ水穴があったりなんかして、こりゃ確かにショートカットするわ・・・。
なんでまたこうなってるのかと思ったら、ながつさんの「ヘッド加工;水穴編」でこの辺の話に触れられていて、この水穴デザインはファミリア時代のままで、NB1まで同じだそうです。


ではNB2(BP-VE)でどう変わったかというと。1番の前側の2つが消滅、1番2番横のインテーク側水穴も消滅、4番横も2個→1個に減(赤丸)。1番側の流量を大幅に減らし、かつインテーク側の流量を全体的に減らしています。水温の不均衡是正と同時にインテーク側の温度を引き上げようとしていますね。
エキゾースト側は逆に3番が1個→2個に増えています。位置も変わっていますがこの意図はよく分からないです。実験の結果この方が温度分布のバランスが良かったんでしょうね。


ちょっと脱線。
NB2(BP-VE)でリルートした場合。ガスケットの水穴変更で1番の水量が大幅に減ってるので、今度は1番が冷えにくい問題が起きそうです。1番側には水温センサーが無いと思うので気づかないかも。
VEヘッドは使っていないとこも含め水穴は全部空いてるように見えますので、VEエンジンにZEのガスケットはそのまま使えそう(VE用のオーバーサイズって無かったような気もする)、その場合はリルートで適正化します。
NB2ヘッドガスケットとリルートの併用はダメ、ってことで。



話を戻して。ヘッド前後でどれくらいの温度差があるかは、水温計を前後に取り付ければ分かります。純正の水温センサーはメーター用とECU用の2つありどちらもヘッド後ろ側についています(緑の□)。一方で、追加メーターの水温センサーはラジエターのアッパーホース、つまり前側につけることが多いかと思いますので両者を比べればいい。
うちのクルマの場合、確かにECUが読んでいる数値の方がだいたい数度高いです(アッパーホースの水温を読んでいるのが大森の水温計なのでまあ参考程度)。

ブローした時に差が出るのはともかく、エンジンが機嫌よく回ってる状態でどんな違いが出るかというと理論的には耐ノック性。間違えちゃいけないのはオーバーヒート気味の時には確かにノッキングが出やすいのですけど、それは吸気温度がめちゃくちゃ上がっているせいであって、水温は高い方が燃焼が速く(=MBTは遅れる)耐ノック性は高いです(耐ノック性=MBTにどこまで近い点火時期を設定できるか)。
もちろん水温はどこまでも高く設定できるわけはなく、オーバーヒートさせないために最高温度はおのずと決まってしまうので、温度の偏在がある場合は最も高温になる4番に合わせてサーモ設定を下げるしかない=これが純正の状態。
純正の状態ではサーモ設定より水温が高い4番の燃焼速度が高く、サーモ設定通りの水温の1番の燃焼速度が最低。これをリルートすると全気筒がサーモで設定した水温になる、それはつまり低い燃焼速度に揃っちゃうということ。
均質な温度分布が得られるなら偏在前提の純正値よりサーモ設定を上げられますし、上げることで燃焼速度を上げられます。つまりリルートを本気で性能アップにつなげたいのなら、サーモ開弁温度を引き上げる必要があります。

# 1997製作時にピストンクーラー加工を行ってノッキング対策を狙っています。ピストンとヘッドでは同じ燃焼室内でも熱の逃げが全く異なるので話が別。

ただ、水温によるノック耐性の変化を実車で定量化するのは(吸気温度や燃料の質等、他の要素が圧倒的過ぎて)不可能です。
正直なところ今回リルートに手を付けることにしたのは、ロードスターにB型エンジンを積む際にマツダが妥協したデザインが気持ち悪いので本来の姿に戻してやろう、というだけ。

またちょっと脱線すると。電動水ポンプ採用のいまどきの車は負荷量に応じて水温を変えるという制御をやっているそうな。シリンダーが減らないよう普段は高めにキープ、ピストンクリアランスが狭い方が圧が逃げないのでエミッションにプラスだし、燃費も良い。ラジエターを小型化する狙いで、外気温と水温の差を大きく取りたいという理由でも水温設定は積極的に高くします。一方でWOTでは水温を少し下げてピストンクリアランスを大きくし、シリンダーとの摺動抵抗を減らし最高出力を稼いでます。

# オーバーヒート対策でリルートを考える人も多いと思いますが、全気筒からちゃんと熱を回収した結果、ラジエターに回る水温を高く出来るので、空気との差分が大きくなりラジエターの熱交換効率が上がるためこれも間違いではないです(理論的には)。


ということでもう一度話を戻して。
目指す冷却経路はファミリアのそれ。
BG8Zは熱湯をシリンダーヘッド後ろからラジエターアッパーに送り、冷水をラジエターロアから吸い込んで(A)ブロック前側に入れています。
これと別経路でヒーターコアへの流路があります。


ファミリアBG8Z(BPエンジン)のヒーターホースが付くのはココじゃないかと思います、ロードスターだとヒートエクスチェンジャーに向かうので細いですが、ファミリアでは太いパイプが使われてるはずです。


ファミリアはここにサーモスタットが付きます。穴のフチをよく見るとちゃんとサーモスタットが収まるリセスがあります(矢印)。ファミリアの場合でもヒーターホースがサーモより上流から出る=常時水が流れるため暖気中でもヒーターが効くと同時に、サーモスタット手前でクーラントが滞留しないよう水を回す役割があります。滞留してしまうとサーモ部の水温が上がらない=サーモが開かず、水温がオーバーシュートしてしまいます。
左はロードスターのサーモスタットハウジング(ヘッド前側についているやつ)で、穴の大きさが全く同じであることが分かります。


先ほどのヘッド後ろの穴はロードスターでは蓋がされていて、ヒーターバイパスホースを取り付けるパイプが生えています。ECUの水温センサーもここにつきます。

ファミリアでサーモスタットが開いたあとは、
@ヘッドリア側→サーモスタット→ラジエターアッパー→ラジエターロア→ポンプ→ブロック前側→ヘッド→ヘッドリア側
Aヘッドリア側→ヒーターコア→ポンプ→ブロック前側
と2つの経路が出来ます。ヒーターバイパスホースという名の通りヒーターへ行ったクーラントはラジエターをバイパスしてポンプの吸い込み側に戻ってしまうんですね。


ロードスターで適切にリルートした場合はファミリアと同じ経路(右図)になるので、暖機後にヒーターバイパスホースを閉じてしまえばラジエターに回る量が増え、冷却効率が上げられます。真夏の渋滞やサーキットで困ってる人はやる価値あるかも知れません。いちいち暖気の際にバルブを開けるのは面倒かもですが。

一方でロードスターの純正の流路の場合はヒーターバイパスホースを閉じるのは絶対にNG。ヒーターコアの先は水ポンプに繋がっており、ヒーターコア流路はエンジン後ろ側からクーラントを吸い出して1番→4番への流れを作り出す大事な役割を担ってます。コイツがないと大部分のクーラントがブロック前側からヘッド前側へとショートカットしてしまうと思われます(あってもするけど無いよりずっとマシ)。



試しに購入したSkidNation (EU_UK)MX-5 Standard Coolant Reroute Kitです。
185ユーロ+Shipping: 26ユーロ=Total: 211ユーロ、日本円で34,708円でした。UKの会社なのにどういう訳だかスロバキアの輸送会社が届けてくれました(謎の言語のメールが来て驚いた)。そして噂に聞いていた通り、見たことないお菓子が入ってました。


これが肝になる部品。
真ん中の穴の直径は47.7mm。


反対側にサーモスタットのツバが収まるリセスがあり、その直径は52.0mmです。



サイズ測定、厚みは34mmでした。



ヒーターコアへの出口。
PTやNPTじゃなくストレートのニップルでゴムのシールがついています。


純正のパイプと太さを比較。
なんか細くないですかこれ。


純正のパイプ、17.3mm。


ビード部分、19.2mm。


Skidnationのパイプ部、16.4mm。
0.9mmも細いです、新品のホースなら大丈夫だと思いますけど中古だとまずいかも。


この穴の直径がこの部品の厚みを規定してます。作業スペースがきついので薄くしたいのですけど、これ以上薄くすると割れそうです。
下の穴は後付けの水温計のセンサーを取り付ける用。使わない場合のためにメクラも付属しています。


ECUへ信号を送る水温センサーの取り付け部(右は純正)。


アルマイト掛かってないし、安い造りです。
これくらいなら自作できそうですのでコピーしてみましょうかね。



問題はこれ、サーモスタットハウジングのキャップ。KIAの部品を流用しているそうなのですけど、古い車種でどこを探してもディスコン。



NA8のを付けるとそそり立っちゃいます。純正コイルだと干渉しちゃいそうですが、COPなら問題ないかも。





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